大判例

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名古屋高等裁判所 昭和29年(う)930号 判決

本件控訴の趣意は、弁護人の控訴趣意書に記載の通りだから、これを引用する。

記録並に原審取調の証拠を調査するに、被告人が原判決に判示の通り昭和二十八年三月六日以降同年十一月十五日迄の間有効な外国人登録証明書を携帯していなかつたことは明白であるが、右は昭和二十七年四月二十八日外国人登録法の施行に伴い、同年十月二十七日限り、従来の外国人登録令に基く登録証明書がすべて失効することとなつた結果、被告人の分については、その世帯主である金正煥に於て、自身及び他の家族の分と共に取纒めて所定期間内に所轄の半田市役所に対し、外国人登録法に基く新外国人登録証明書の交付方申請手続を為して受理せられ、その後被告人以外の分については全部右金正煥に対し交付するに至つたものの、同市役所の係員は、被告人の分についてだけは、本人出頭して直接受領すべきよう、金正煥に申し渡すと共に、郵便を以て重ねて被告人にその出頭を促したが、被告人は当時別件で発せられていた逮捕状によつて逮捕せられることを惧れて、一旦は同市役所に出向きながら、遂に新たな外国人登録証明書を受領するに至らなかつたに因るものであることが認められる。

ところで、外国人登録法を見るに、同法による外国人登録証明書の交付申請は、十四歳未満のものとか、疾病その他身体の故障により自身出頭して手続をとり得ない場合以外は、本人が自身直接所轄役所に出頭して手続を為し、その交付を受くることとなつて居るものと解されるのであるが、右はその出頭の際の本人の確認により虚無人、死亡者、非居住者等に対する外国人登録証明書の発行等の過誤を防止し、その他必要な事項を調査し、よつて以て、在留外国人の居住関係その他を明確にし同法制定の目的を達しようとの趣旨に出るものと解される。従つて、前記例外の場合に該つていたとは認められない被告人につき、外国人登録証明書の交付申請手続を世帯主である兄金正煥に於て被告人に代つて為し受理せられるというが如きことは、固より法の建前からは許されないところといわねばならない。然し、原審証人浅井英夫、同金漢振、同金正煥の証言等によれば、半田市に於ては、本件外国人登録証明書の切換に際し、関係者の話合で、市内居住の朝鮮人については、便宜世帯主にその家族の分も取纒めて一括して手続を為さしめ、これに一括して登録証明書を交付することとしようとの諒解が成立し、その結果、被告人以外の分は、すべて格別の故障なく、右諒解の線に従つて処理せられ、従つて被告人の属する世帯の分についても、被告人の分を除いて、世帯主金正煥及び他の家族の分について、支障なく処理せられ、世帯主たる金正煥に登録証明書が一括交付せられた次第で、右は固より便宜の措置ではあるけれども、事務処理上支障なき限り、これを違法視することはできないというべきではあるが、事の性格上前記諒解に格別の拘束力はないから、本人の居住確認等同法の目的達成の必要上、係員より申請交付につき被告人本人の出頭を求めたものであれば、被告人に於てこれを拒むことはできないが、冒頭の説明中にある通り、被告人に対する新たな登録証明書の交付については、世帯主金正煥の手により申請手続が執られ、受理せられたもので、ただ別の日を指定して為された右申請に基く新たな登録証明書の交付についてだけ、被告人本人に出頭を求められるに至つたものであるが、記録全体から見て、本件の場合、被告人に対し、その本人の居住確認等の目的から、特に他の一般朝鮮人に対すると取扱を別異にし、その本人直接の出頭を、求めなければならなかつたという如き必要があつたと認めるに足る証拠はない。原審証人浅井英夫は、この点につき恰も同趣旨の必要に出づるものであるかの如く証言をしているが、前後二回の証言はその理由とするところにくいちがいがあつて、容易に信用し難く、却つて、その証言の一部と前記金正煥の証言その他記録に現れた各資料を綜合すると、被告人に対してだけ出頭を求めるに至つたのは、格別外国人登録法に基く本来の必要によるものではなく、被告人の危惧した如く右受領の為に出頭の機会を捉えて、別件の逮捕状による被告人逮捕の機会たらしめようとした形跡が窺はれ、被告人も一旦は出頭し、係員に対し、出頭の旨を申出でたが、係員が殊更にその交付を渋滞していたので、右の利用を惧れて、退去したために、遂に本件外国人登録証明書を受有するに至らなかつたものであると認められる。

およそ、外国人登録法第十八条第一項第七号によつて処罰する同法第十三条第一項の規定に違反して登録証明書を携帯しないというのは、故意に登録証明書を携帯しない場合ばかりでなく、過失によりこれを携帯しない場合をも包含する法意であり(最高裁判所昭和二十八年三月五日第一小法廷決定、同判例集第七巻第三号五〇六頁参照)、そして、これを携帯しないというのは、本来登録証明書の交付を受けているに拘わらず、これを携帯しない場合をいうのである(大阪高等裁判所昭和二十六年三月七日第一刑事部判決、高裁判例集第四巻第四号三〇八頁参照)が本人の故意過失その他責むべき事由によつて交付を受けない場合は、これが交付を受けている場合と同視して、右第十八条第一項第七号の罪として処罰することができるものと解するを相当とするけれども、登録証明書の交付を申請し、係員よりその受領を求められるも、故意過失その他本人の責むべからざる事由によつて、これが交付を受けない場合は、本人はこれが交付を受けていないものというべきである。本件についてこれを見るに、被告人は、前説示のように正当に登録証明書の交付を申請し、その交付を求めたにも拘わらず、係員が前記のような事情によつて、その交付を渋滞したために、これを受有するに至らなかつたものであるから、これが交付を受けていないことについて、被告人に故意過失その他責むべき事由はないので、被告人は、本来これが交付を受けていないものというべきである。従つて、これを携帯していなかつたものとしては、処罰することができないといわなければならない。然らば原判決は、その不携帯の因つて来れる原因に関する事情関係事実を誤り認定したに非ざれば、法律の解釈適用を誤つた瑕疵があるものといわねばならぬ。論旨は理由がある。

以上説明の通りであるから、刑事訴訟法第三百九十七条に則り、原判決を破棄し、同法第四百条但書に従つて、次の通り自判する。本件公訴事実は、「被告人は外国人であるが、昭和二十八年三月六日より同年十一月十五日まで、日本国内に於て有効な外国人登録証明書を携帯していなかつたものである」というに在るが、前段説明の通り不携帯の犯罪は成立しないものであるから。刑事訴訟法第四百四条第三百三十六条に基き、無罪の言渡をすることとする。

(裁判長裁判官 高橋嘉平 裁判官 山口正章 裁判官 海部安昌)

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